子どもが親に葛藤する心理はしばしば指摘されますが、親が子どもに葛藤する心理についてはほとんど取り上げられません。親が子どもに葛藤する心理は、具体的にどのようなものでしょうか。
宗教が支配する家庭では、親と子どもが同じ価値観を持つことになります。エゴが育ってきた子どもは親の価値観に抵抗しますが、抵抗したところで家を支配する親の価値観が変わることはありません。親は自分の価値観が宗教というものさしに照らして絶対的だと思っているからです。
親と子どもが同じ価値観を持つと、親子の間に微妙な心理的化学変化が起きます。親の側に子どもに負けたくないという感情が芽生えます。特技や趣味が同じであれば、親の側がライバル心を抱き、子どもに負けじと頑張ることになります。
親と子が同じ才能を持っていて、宗教団体という小さなコミュニティの中でその才能を活かす機会があったとします。健康的な親であれば子どもの活躍を願うものですが、しばしば逆の現象が起きます。親が子どもの活躍を願わないのです。逆に押さえ込んだり足を引っ張ったりします。
子どもが「用いられる」(注・団体の中で役割や立場が与えられるという意味の教会専門用語。カミが用いているという意味でこのことばが使われます)と、親は心理的にそれに張り合うようになります。
子どもが親と同じ職業を選択した場合は、葛藤はさらに増幅します。専門職同士、同じ団体の中で心理的に競うことになります。子どもが親と同じ職業を選択することにはリスクがあります。
親のライバル心は、具体的に次のような行動になって表れます。
1 子どもにダメ出しをする
子どもが新しい挑戦をすると、それは間違っている、あるいは足りないとレッテルを貼ります。
2 子どもが団体や親に従わないことを責める
団体の価値観に沿うことが正しいことであるという教義を大義にします。宗教や団体に従わないことを指摘し、上手にすり替えて自分に従わせようとします。
3 子どもの足りないところを他言する
子どもについて誇大解釈や歪曲がされます。自分都合で事実と異なることを言うこともあります。
4 子どもを孤立させる方向に持って行く
子どもが結婚している場合、子どもの配偶者に子どもの悪口を言うなどして、親の側に着くように仕向けます。メンバーに子どものことを悪く言うケースもあります。
5 自分が子どもから大切にされていないなど被害者の立場を演じる
自分が子どもを受け入れ、子どもの良さを認めることができないにもかかわらず、その心理は、子どもが自分を認めていないことにすり替えられます。いわゆる投影です。
子どもから見れば、心引き裂かれる大事件ですが、親の側は自分を守ることで必死です。自分の不全感や寂しさをなんとかしなければならないからです。子どもが苦しんでいることまでには思いが至りません。
親の子どもに対するライバル心は破壊的です。子どもは親が自分に対してライバル心を抱いていることを感じるたびに、自分は親に受け入れてもらっていない、愛されていないというメッセージを受け取ります。子どもから見れば、親が自分のことを潰してくると感じます。
それだけではありません。宗教はしばしば愛を語るので、見た目は信心深い親の姿と自分に対する接し方のギャップに疑問を抱くようになります。親のスタンスと教義との矛盾が、子どもの心をさらに傷つけるのです。このようにして、親子関係と子育ての全部が壊滅状態、焼け野原になります。
壊滅状態になっていながら、宗教というオブラートがその壊滅状態を覆い隠してくれます。子どもを抑え込んでいれば、団体では、宗教によって家庭を治めているという見方をしてもらえます。賞賛されることもあります。
最初子どもは、親のライバル心を必死にスルーしようとします。それでも耐えられなくなると、子どもはその息苦しさから逃れる努力を始めます。子どもが自分から逃れようとしていることを敏感に感じ取った親は、今まで以上に、子どもが自分を越えて行くことを邪魔します。
続く


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